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2026.09.03

マイクロデータが、まちの未来図を描く —— 住居単位で精度92%! 官民連携で育てる将来空き家予測と地域設計

日本の空き家は約900万戸。7軒に1軒が空き家となり、2040年には5軒に1軒に達するとも言われる。放置された空き家は、火災や漏水など、地域の安全やインフラを脅かすトラブルの原因となる。

あまりの数の多さと増加のスピードに、多くの自治体が抜本的な対策を打てずにいる。さらに問題を難しくしているのは、空き家かどうかを把握するだけでも骨が折れるなか、所有者とコンタクトをとれるころには家屋の損傷が進んでいたり、認知症が進んで判断できない状態になっているなど、対策を打とうとするころには問題が複雑化し難題となってしまっている傾向が少なくないことだ。

だが、本当に打ち手はないのだろうか。深刻化する前であればあるほど、もっと多くの選択肢を提示することができる。端的にいえば、どこが空き家になるか、事前に分かれば、打てる手は格段に増える。

住民基本台帳、水道使用量など——行政は、まちの未来を読み解けるデータをすでに持っている。問題は、そのデータの活用には多くのハードルがあり、結果として庁内で眠っていることだ。

その眠ったデータを活用してAIで「先回りの予測」に変えた人がいる。マイクロベース株式会社 代表取締役の仙石裕明氏だ。豊田市との共創で生まれた空き家予測AIは、5年後の空き家を精度92%で予測。その技術はいま東京都、国土交通省にも広がり、Publink Summit for JAPAN 2026 SPRINGの官民共創アワードではグランプリを受賞した。

▼【結果概要】マイクロベース株式会社・仙石氏が「官民共創アワード」優勝|Publink Summit for JAPAN 2026 SPRING
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000062801.html

しかし、仙石氏はこう振り返る。技術だけでは、行政は動かなかった——。

彼を前へ進ませたのは、同じ課題を同じ熱量で抱えた、行政の中の “同志” との出会いだった。

聞き手は、Publink代表の栫井誠一郎。官と民、双方の現場を歩いてきた栫井は、仙石氏と、その “同志” である愛知県豊田市上下水道局の岡田氏に話を聞いた。技術の裏側にあった葛藤とは。行政の壁は、どう越えられたのか。三者の対話を通じて、共創の軌跡を紐解いていく。

官民共創の最前線を走り続けるPublinkだからこそ聞けた、官民共創アワード・グランプリ受賞の舞台裏をお届けする。


仙石 裕明(せんごく ひろあき)

マイクロベース株式会社 代表取締役。2009年、慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学中にSFC AWARD(学内表彰)を受賞。位置情報データを活用したビジネスプランで、第7回キャンパスベンチャーグランプリ・テクノロジー部門優秀賞を受賞した。2014年、東京大学大学院新領域創成科学研究科にて博士号を取得。現在は、麗澤大学AIビジネス研究センター客員准教授、東京大学空間情報科学研究センター客員研究員も務める。

人口減少によって生じる空き家やインフラ、まちづくりの課題に対し、位置情報や行政データ、AIを活用して地域の将来を予測し、政策や事業の意思決定を支援するサービスを開発している。

原点にあるのは、子どもの頃から好きだった都市開発シミュレーションゲーム「SimCity」。いつか、現実の都市データを使った“リアルなSimCity”をつくりたいと考えている。地図を見ることも大好きで、時間があればGoogle Earthを眺めながら、街や建物の変化を追い続け、団地や集落に出かけている、生粋の地図・都市データオタク。


第一章 SimCityから始まった、「ミクロなデータで街を読む」夢

仙石氏の原点は、小学生の頃に熱中したゲーム「SimCity」にある。何もない土地に、道路を引き、施設を置き、街を育てていく。「街をデータでつくる」体験は、そのまま人生のテーマになった。

高校時代はマレーシアで暮らし、熱帯林が伐採されて消えていく光景を目の当たりにする。環境問題への関心を抱いて進んだ大学1年時、2005年に登場したGoogle Earthに衝撃を受けた。――民間企業が、地球の裏側まで見えるサービスを作ってしまった――。衛星画像や位置情報データで世の中を解析することに、仙石氏は魅せられていく。

慶應義塾大学環境情報学部に進学。修士・博士課程では地図会社との共同研究で、研究がそのまま実ビジネスにつながる手応えを得た。「ミクロなリアルデータで街をシミュレーションする」——社名「マイクロベース」の由来でもあるこのコンセプトは、この頃から一貫して変わっていない。

仙石氏と将来予測AI「MiraiE(ミラーエ)」

だが、道のりは平坦ではなかった。博士課程中に起業した1社目は、資本政策の失敗から会社を清算。再起をかけた2社目もコロナ禍で主力事業が頓挫した。

原点に立ち返ったとき、思い出したのは、かつて自治体職員から言われた言葉だった。「予測ベースのデータは、どこまで信頼できるか分からない」。国勢調査のような統計は、地域全体の傾向はつかめても、「どの家が空き家になるか」までは見えない。ならば——住民基本台帳や水道使用量といった、一軒一軒の実態がわかるデータから未来を予測すればいい。

MiraiE、空き家予測マップのデモ画面

家は、ある日突然空き家になるわけではない。高齢の所有者が施設に入居する、亡くなって誰も住まなくなる——「どんな人が、どんな経緯で」空き家になるかという構造は、人が起因する以上、全国どの自治体にも共通している。だからこそ、人の動態を読み取ることができる、行政が持つミクロなデータを連携させれば、まちの未来は読めるはずだ。

伝説のアイデアを、ようやく思いついた。そう確信した。しかし。

「ようやく思いついた伝説のアイデアと思ったんですけど、なかなか進まないんです」

技術の前に立ちはだかったのは、行政特有の「壁」だった。

第二章 「私一人なら、心が折れていた」——データ連携の壁と、それを越えた同志

自治体に提案しても、返ってくるのは「実績はあるんですか」「検討します」。名もないスタートアップが、住民基本台帳という最も繊細なデータの提供を求める。ハードルの高さは想像に難くない。

これは空き家に限った話ではない。データ提供には法令上の根拠が問われ、セキュリティの懸念が立ちはだかり、複数部署の合意がなければ庁内は動かない。行政のデータ活用に共通する、構造的な壁だ。

「私一人なら、心が折れていたと思います」

そんな仙石氏の前に現れたのが、愛知県豊田市上下水道局の岡田氏だった。

写真左:豊田市上下水道局主幹 岡田俊樹 氏
写真右:マイクロベース株式会社 代表取締役 CEO 仙石裕明 氏

豊田市には、切実な課題があった。2018年1月、山間地区で空き家14戸の水道管が凍結破損。誰も水を止める人がいないまま漏水が続き、周辺700軒が断水に陥ったのだ。凍てつく冬の山間部で、16人の職員が72時間、手探りで一軒一軒しらみつぶしに漏水箇所を探し回る——そんな消耗戦が現実に起きていた。

市は独自に、山間地域の空き家情報をGIS(地図データ)に登録し、水道使用量がゼロの家を手がかりに、冬季には所有者へ凍結への注意を促す通知を送っていた。だが、その情報は一度きりで更新が難しく、所有者の多くも遠方に住む。凍結破損を未然に防ぐには至らなかった。また、国レベルでは、水道事業者と空き家部局の連携を促す通知が厚生労働省から出ていたものの、実際に連携している市町村は、岡田氏によるとほとんど確認できなかった。

そこに現れたのが、仙石氏の空き家予測技術だった。岡田氏は動いた。それも、尋常ではない動き方で。

まず市の情報戦略部門に働きかけ、「最新技術研修会」を開催してもらい、都市整備部(空き家を担当する部署)とマイクロベースを引き合わせる。上下水道局は凍結対応、都市整備部は空き家の実態調査——異なるニーズを持つ部署が、それぞれのストーリーで同じ技術に参画する形を設計した。加えて、上下水道局は「空き家のガスを早急に切断したい」というガス会社も巻き込み、水道・ガス・マイクロベースの3者による実証も構築。データを重ね合わせることで予測精度を高めた。国土交通省の空き家対策モデル事業という国からの補助金を活用し、上下水道局の直接支出はゼロで実現させた。

豊田市とマイクロベースの連携体制

水道使用量は過去20年・2400万件。ガス、電気、住民基本台帳、固定資産の登記情報。庁内外に眠っていたデータが、一つずつ紡ぎ合わされていく。複数データの組み合わせにより、5年後の空き家予測精度は92%に達した。この予測技術は、特許も取得している。

岡田氏は仙石氏との共創を、こう振り返る。

「一言で言うと、天才なんですよ。ただ、それだけじゃない。こちらの課題に対してフィードバックがあって、また次のバージョンが返ってくる。『うちの商品はこれです、使ってください』じゃなくて、一緒に作っている感覚がある。当時のスタートアップでは、本当に珍しかった」

岡田氏と仙石氏は、同じ未来を見る、対等なパートナーだった。

そして、成果は数字で表れた。

2023年2月、約100戸に水を供給する配水場で水位の低下が確認された。大規模断水の恐れがある中、従来なら該当エリアをしらみつぶしに目視調査するところを、予測データで空き家候補30戸に絞って先行調査。現地調査の開始からわずか1時間半で、水道管が破裂した空き家を特定できた。かつて職員が徹夜で探し回った作業が、劇的に効率化されたのだ。

予測データを使い、1時間半で破損箇所を特定した当日の記録

マイクロベースのメンバーで現地を歩いて空き家の状況を確認する様子

さらに、空き家”予備軍”エリアを特定し、「終活・エンディング」をテーマにしたセミナーを開催すると、参加者は通常の約6倍となる32名に。空き家になってから対処する「事後対策」から、空き家にさせない「事前対策」へ。行政の施策そのものが、予防保全型へとシフトし始めた。眠っていたデータが、まちを動かした瞬間だった。

この共創の物語は、2026年5月、約1,000人の官民キーパーソンが集った「Publink Summit for JAPAN 2026 SPRING」の官民共創アワードで、グランプリという形で結実する。壇上で仙石氏が語った受賞の言葉が、この共創のすべてを物語っていた。

「一番嬉しかったのは、同志がいたことです」

優れた技術だけでは、社会課題は解決できない。同じ課題意識を持ち、ともに前へ進もうとする行政の同志がいたからこそ、ここまで来られた——。その実感のこもった言葉は、官民共創の本質として、会場の多くの参加者の心に残った。

Publink Summit 2026 官民共創アワード グランプリ受賞の様子

第三章 データで描く、まちの未来の”設計図”

豊田市との共創は、次のステージに進んでいる。

豊田市とマイクロベースによる展示ブースでの発信の様子

空き家予測の技術を裏返せば、人口予測になる。水道メーターと住民基本台帳を組み合わせ、世帯人数の変化を追えば、人口減少を住居(建物)単位で予測できるのだ。それは、自治体が避けて通れない長期計画の、確かな基礎データとなる。

なぜ、ここまでミクロな予測にこだわるのか。仙石氏には、既存の公的データへの問題意識がある。

「国が5年に一度行う国勢調査はとても貴重なデータですが、更新は5年に1回、この調査に基づいて作成される将来推計人口の解像度も市単位です。それでは、地域ごとの実態や、いま起きている変化を捉えきれない」

これに対しマイクロベースの手法は、自治体がすでに持つ水道データなどの個の推移をいわばログとして追うことができるデータを起点にする。水道であれば使わなくなれば閉栓となる。さらに利用が再開されることがあれば開栓となる。ここから読み取ることができるのはまちの新陳代謝である。すべての人には寿命があり、いつかは必ず亡くなるので空き家が発生することは避けることができない。しかし、また次の利用者が現れれば空き家ではなくなる。空き家とは一度空き家になってから、次の入居が起こらない住宅であるといえる。こうした新陳代謝が健全に起こっているかどうかを確認するには、ミクロなデータからしか把握できない。

解像度が上がれば、打てる手も変わる。学校や公共施設をいつどこで統廃合するか、施設の配置や規模をどう見直すか、オンデマンドバスの運行エリアやルートをどう設計するか——需要と供給が関わるあらゆる公共サービスに対して、地域ごとの状況に応じた判断が、円滑かつ詳細にできるようになる。

現在も研究開発を進め、豊田市とは新たに協定を締結。豊田市が全職員約3,600人に将来予測AIの業務活用を尋ねたアンケートには、施設再編やインフラ整備など223件もの要望が寄せられた。資産経営課など、水道や空き家の枠を越えた部署とも、新たな実証が始まっている。

さらに2026年7月には、豊田市との取組成果の集大成として、国勢調査などの公的オープンデータをもとに推定した「全国町字単位空き家率推定データ」を無償公開。ウェブマップ上で誰でも推計結果を閲覧できる。公開翌日には、全国の自治体、ベンダー企業、研究者などからも問い合わせが寄せられ、大きな反響を呼んでいる。

▼全国町字単位空き家率推定データ(プレスリリース)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000122452.html

▼ウェブマップで推計結果を見る
https://app.kumoy.io/public/map/4a310b89-43c2-4cb9-abe0-0e71100b82c0#7.73/35.801/139.288

全国町字単位空き家率推定データ/ウェブマップの画面

海外展開も始動している。空き家予測技術の特許は韓国においても特許として承認された。また、バルセロナで開催されるSmart City Expo World Congress(SCEWC)では日本から唯一のStartup企業として採択され、ピッチ登壇し、ドバイやドイツの市町村などから問い合わせがあった。

Smart City Expo World Congress(SCEWC)でのピッチ登壇の様子

仙石氏が見据えるのは、各自治体が「都市OS」とも呼ぶべき専用AIを持つ未来だ。

「住民基本台帳や水道などのデータは、自治体だけが持つ唯一無二のデータ資産です。セキュリティやプライバシーには最大限の対策を施したうえで、まちづくりのために汎用的に使える仕組みができれば、あらゆる都市政策の基礎になる。問題が起きてから対処するのではなく、起こりうる問題を可視化して、今の時点から減らしていく。そういう仕組みが、すべてのまちのスタンダードになってほしい」。

仙石氏の挑戦は、データの外側にも広がっている。武蔵小杉の開発拠点に、多拠点で暮らす「DUALER(デュアラー)」という生き方を実践的に研究するコミュニティ「DUALER LAB(デュアラーラボ)」を設立した。

空き家は問題であると同時に、暮らしの選択肢を広げる資源にもなりうるAIをつくるだけでなく、自ら生活者として実践して検証する。それが、空き家対策の本質的な出口につながると仙石氏は語る。

▼「デュアラーラボ武蔵小杉」ホームページ
https://microbase.notion.site/dualerlab

人口が減りゆく時代、まちのかたちは変わらざるを得ない。だからこそ、限られた資源をどこに集めるかを計画的に見極め、コンパクトにしながらも地域の可能性を高めていく。その判断にこそ、確かな基礎データが要る。次の世代に、より良いまちを手渡すために。

SimCityに夢中だった少年は、いま、リアルなデータで日本のまちの 「設計図」を描こうとしている。

一緒に、まちの未来を描きませんか

技術は、同志と出会って初めて社会を変える。豊田市との共創が証明したこの事実を、仙石氏は「面」で広げていきたいと語る。

この出会いをきっかけに、何かが動き出すかもしれません。
記事を読んで感じたこと、共に取り組んでみたいテーマなど、どんなことでも構いません。
ぜひ、仙石さんへ想いをお寄せください。
いただいた内容は、仙石さんにお届けさせていただきます。

写真左より
株式会社Publink 代表取締役社長 CEO 栫井誠一郎
マイクロベース株式会社 代表取締役 CEO 仙石裕明 氏
豊田市上下水道局主幹 岡田俊樹 氏

仙石社長は、理屈を超えた情熱でまちの未来に向き合い続けている、そういう人がイノベーターなのだと思います。そして、大きな変化は一人だけでは起こせない。

「一番嬉しかったのは、同志がいたこと」。

仙石さんがアワードの壇上で語ったこの言葉に、官民共創の本質が詰まっていると感じました。

どれほど優れた技術も、それだけでは行政は動きません。仙石さんの技術と、岡田さんの「庁内を動かす力」。両者が同じ課題に向き合い、対等な同志として手を取り合ったからこそ、空き家予測という前例のない仕組みが生まれ、まちが実際に動きました。

あなたのまちにも、眠っているデータと、向き合うべき課題があるはずです。そして、それに本気で挑む同志も。

仙石さんへの感想や、共創のリクエストなど、ぜひ上記のフォームに入力をお願いします。(Publink Letterは、いただいたメッセージをご本人にお届けいたします)

株式会社Publink 代表取締役社長CEO 栫井誠一郎

▼株式会社Publinkとは

「日本に生まれて良かった」と未来でも言ってもらえる国へ

Publinkは日本の経済と社会の両方をさらに豊かにしていくため、国、自治体、企業等の様々なキーパーソン達と共に未来を描き、日本の未来を共創しています。

会社HP:https://publink.biz/
Publink サービスページ:https://publink.site/

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