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2025.05.27

どんな組織でも関われる!──オールJICAで取り組む共創 × 革新プログラム「QUEST」始動

職員数約2,000名、年間の事業規模は兆円単位。世界約145ヶ国・地域を協力対象とし、97の海外拠点を持つ、グローバルな組織──JICA(国際協力機構)。
開発途上国支援や青年海外協力隊で知られているJICAが、いま大きな転換期を迎えています。
組織として力を入れている「共創×革新」をキーワードに、JICA全体を巻き込む実験的プロジェクト「QUEST」が2025年、いよいよ始動しました。

QUESTは、

  • QUESTを通じて初めて出会う組織や人同士でチームを組成可能
  • 海外への展開に加え、海外から日本への「環流」も対象
  • JICAの各部署から選ばれたアクセラレーターも支援(オールJICA体制)
  • 必要に応じて、海外政府との繋ぎもサポート
  • 採択されたプロジェクト(最大10件程度)には資金提供あり

という特徴を持ったプログラムです。

誰もが参加可能で、どんな組織にも連携の余地がある、前例のないこのチャレンジを仕掛けているのが、JICA企画部「QUEST」チームの前田紫(ゆかり)さんです。

本記事では、前田さんに、プロジェクトへの想いやJICAが目指す共創の未来、今後開催予定のマッチングイベント(6月3日@東京、6月9日@名古屋、オンライン参加も可)についてお話を伺いました。

Publink代表として官民の想いをつなぎ続ける栫井(かこい)が、前田さんの想いや行動を言語化し、まだ見ぬ未来の共創パートナーへ届けるーー。本記事は、そういった試みです。

「前田さんと一緒に何かを起こしたい。」 未来の仲間たちへ、Publink Letterが想いをつなぎます。
(記事を読んだ後は、前田さんへの感想や共創のご希望もぜひお寄せください)


前田紫(まえだ ゆかり)
国際協力機構(JICA)企画部総合企画課(イノベーション・SDGs推進班)、調査役。JICA入構後は、南アジア部、人間開発部を経て2020年~3年間ネパールに駐在。アジア地域を中心に保健やインフラ、防災等の事業を担当。多様な人との共創に関心を持ち、オープンイノベーションプログラム「JICA Innovation Quest」の立ち上げや、業務の傍ら慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科を修了。


課題を本質的に解決するためには共創が必要だ──有志の活動がJICAの事業へ

本章では、JICAの共創プロジェクト「QUEST」を立ち上げた前田紫氏の原点に迫る。有志活動から始まった小さな試みが、どのように組織を動かす事業へと進化したのか。その背景には、前田さん自身の人生観と問題意識が深く関わっている。

栫井:
前田さん、今日はよろしくお願いします!
JICAやQUESTについてお伺いする前に、強い想いを持ってこのプロジェクトを推進されている前田さんについて、もっと知りたいと思います。まずは、改めて自己紹介をお願いできますでしょうか。

前田(敬称略):
改めまして、前田紫(ゆかり)と申します。JICAには2016年に入構し、現在10年目です。もともと国際協力という軸で就職活動をしていたわけではなく、「人の心の豊かさとは何か」を軸に、社会福祉系のスタートアップや吉本興業をはじめ様々な企業を受けた結果、最終的にJICAにたどり着きました。

その選択の背景として、大学時代にカンボジアに学校を建てる学生団体の活動に参加したことが繋がっているかもしれません。現地で子供たちと交流しながら一緒に大工仕事をしたのは素晴らしい経験でしたが、一方で、「世界の課題について何も知らないまま、ここに学校を建てていていいのだろうか」、「本質的な課題は何なのだろうか」といった疑問も感じていました。心豊かな暮らしに影響する課題は世界に無数にあって、自分はまだまだその一側面しか知らない、ということを痛感しました。

画像:大学生時代のカンボジアでの活動の際の写真

そこで、「世界の課題はどう繋がっているのか」「どこにアプローチすべきか」をもっと知りたい、考えたい、という想いで、JICAへの就職を決めました。

栫井:
学生時代からとても高い視座をお持ちだったのですね。「人の心の豊かさ」がキーワードになった背景について、もう少し詳しく教えていただけますか。

前田:
何か大きなきっかけがあったわけではないのですが、子供の頃から、人の気持ちへの関心は強い方だったかもしれません。

経済的に豊かでなくても心豊かな人がいる一方で、物質的には満たされていても生き辛さを抱えている人もいます。私自身も、できれば楽しく生きていきたいし、周りの人にもなるべく幸せでいてほしい。私は臆病だったり、警戒心が強いところがあるので、社会の環境や仕組みによって、誰かの可能性が理不尽に閉ざされたりすることがないように、より多くの人が安心して生きられる社会をつくりたいのかもしれません。

栫井:
新規事業をつくる上で「自分自身が課題を感じているか」が大事だと言われますが、それに通じるお話ですね。JICA入構後は、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。

前田:
最初は南アジア部に配属されました。そこではアフガニスタン・パキスタン・ネパールの留学生事業やインフラ事業などを担当していました。新人で自分自身の力不足をひしひしと感じ、システム思考を学んで外部の多様な視点を取り入れられるようになれば、もっと良い仕事ができるようになるのではないかと考え、プライベートで、2018〜2020年に慶應義塾大学SDM(システムデザイン・マネジメント研究科)に通いました。異なるバックグラウンドの方々と協働するのはとても刺激的で、「人によって、業界によってこんなにもものの考え方や仕事の仕方が違うのか」という気づきがありました。

そんな問題意識を持って学んでいた頃、同じように現状の仕事に仕方に問題意識を持っていた同期4名とともに、多様なバックグラウンドの方々にご参加いただき国際協力における「共創と革新」を目指すオープンイノベーションプログラム「JICA Innovation Quest(通称ジャイクエ)」を立ち上げ、共創の取り組みを始めました。

画像:「ジャイクエ」(JICA Innovation Quest)の活動の様子

その後はネパール赴任を経て、2023年に社内公募で現在のポジションに就きました。今回ご紹介する「QUEST」は、「共創と革新」というキーワードを大切にしているという意味で、「JICA Innovation Quest」と志を同じくする取り組みであり、JICAとして本格的に始動したプログラムです。

画像:ネパール赴任時代の様子①


画像:ネパール赴任時代の様子②

栫井:
元々は有志のプロジェクトがきっかけだったのですね! 共創に対する前田さんの強い想いが伝わってきました。

JICAにおける変化ーー共創・革新を目指して

JICAの国際協力は、より開かれたかたちへと移行しつつある。民間や地域、海外パートナーと連携する“共創型の関係構築”が求められるなかで、JICAの役割は大きく変わり始めている。


栫井:
QUESTについて伺う前に、改めてJICAという組織の全体像を教えてください。

前田:
JICAは、日本のODA(政府開発援助)を担う国際協力機関で、多様なスキームを用いて事業を展開しています。たとえば、技術協力、無償資金協力、有償資金協力、そして民間企業との連携などです。常勤職員数は約2,000名、ローンも含めた事業規模は兆円単位にのぼり、世界に約97の海外拠点を持ちます。

「国際協力」の価値について、私自身は、複雑化する世界の課題に対し、国際協力という形でともに取り組むことで、各国との良好な関係性が築かれ、信頼できるパートナーが着実に増えていくことにあると考えています。

また最近では、ODA予算が限られる中、むしろ民間の多様なプレイヤーが関わることがますます重要視されています。JICAが「触媒」となり、多様なアクターが連携しながら共創を進めることが求められているのです。2017年には、「共創と革新」という言葉がJICAのミッションを実現するためのアクションとして明記され、全体としてアクティブに動き出しています。

そしてもう一つのキーワードが「環流」です。今や日本が開発途上国から学ぶべきサービスやノウハウも多く、海外のパートナーと学び合う姿勢が一層重要になっています。

QUESTでも、日本国内の地域との連携も模索しながら、新しい形の共創を生み出したいと考えており、2025年度は名古屋の共創施設STATION Aiさんを会場としてお借りし、海外パートナーと日本の地域リソースを繋ぎ、「環流」を目指しています。

栫井:
JICA全体として、「共創」・「革新」・そして「環流」と新しい動きに取り組まれているのですね!

QUESTとは何か?
ーーJICAが仕掛ける”共創の実験場”

「QUEST」は、JICAが組織を挙げて取り組む“共創の実験場”である。既存の委託スキームとは一線を画し、多様なプレイヤーが対話と試行錯誤を重ねながら、共創の形を模索する新たなプラットフォームだ。設計思想から具体的なプロセスに至るまで、その特徴を紹介する。


栫井:
それでは、QUESTについて、詳細お伺いしてもよろしいでしょうか。

前田:
QUESTは、民間企業、アカデミア、公的機関、市民社会など、多様な立場の人々が対話を通じて共創を模索するプラットフォームです。リソースを持ち寄り、対話を通じてマッチングを行い、そのうえで共創アイデアを募集・審査・コンペ形式で選定し、PoC(実証実験)までつなげていく、一連のプロセスを設計しています。

課題に関する情報を持っている人、アイデアを持っている人、ソリューションを持っている人ーーそうした多様な人々が出会い、1アクターでは生まれなかったような新しいプロジェクトが生まれることを目指しています。

6月3日と9日に開催するマッチングイベントでは、ピッチやブース展示、個別相談の機会を設けています。また、イベントに参加できない方でも、後日公募への応募は可能です。現時点でやることが明確でなくても構いません。少しでも関心があれば、ぜひ参加してほしいです。

栫井:
プロジェクトの内容が具体的になっていなくても、まずは「何ができるか」から一緒に考えていく、共創の第一歩を支援する事業なのですね!JICAとして、これまで様々な事業に取り組まれていらっしゃいますが、その中で、QUESTはどのような特徴があるのでしょうか。

前田:
これまでのJICAの事業と比べても、かなりチャレンジングな取り組みであると思っています。あらかじめプロジェクトの内容を設計し、それに基づいて委託を行う形ではなく、より早い段階から関係性を築き、対話を重ねながら、そこからどのような価値が生まれるかを共に探っていく――それが本取り組みの大きな特徴です。

また、この事業は、JICAが持つ各分野の専門家や、海外拠点とのネットワークを最大限活用する「オールJICA」の取り組みとすることを目指して挑んでいます。イベントにも、我々企画部だけでなく各部からアクセラレーターが参加する予定ですし、採択されたプロジェクトは、JICAも支援させていただきます。

栫井:
まさにJICAにとっても「QUEST」な事業なのですね!具体的に、どんなプロジェクトが生まれたら良いか、過去の事例等ございましたら、教えていただきたいです。

前田:
イメージに近いものとしては、ドローン技術を有する株式会社エアロネクストが実施した、モンゴル国でのドローンによる血液製剤の輸送事業など、国内で培われた技術やノウハウを海外に応用する取り組みがあります。

事例:ドローンを活用した血液輸送でモンゴルの交通渋滞から救急医療を救う - 株式会社エアロネクスト(東京都)

また、海外協力隊として現地で経験を積んだ方々が、日本に帰国後、地域課題の解決に取り組むような「環流」を体現するプロジェクトも大歓迎です。

つまり、プロジェクトのフィールドは、海外でも国内でもどちらでも対象になります。こうした事例に限らず、できる限り門戸を広く開き、より多くの皆さまと共に新たな価値を創り出していきたいと考えています。

今後、あらゆる方々とつながっていきたいと考えていますが、QUESTは新しい取組みであり、現時点ではまだまだ十分な接点を持てていないアクターも多いのが実情です。ぜひ、これまでJICAとの繋がりがなかったようなセクターの方々とも積極的に連携を深めていきたいと思っています。

また、業種の多様性のみならず、国籍やジェンダー問わず多様な方にご参加いただきやすいプログラムになるよう工夫していきたいと考えています。

共創を”当たり前”にする組織へーーQUESTが目指す先

「QUEST」は単なる事業には留まらず、JICAという組織の文化を変革する挑戦である。最終章では、前田さんが描く長期的なビジョンと、共創を“当たり前”とする組織づくりへの思いを聞く。

栫井:
今後、より長期的に目指していることがあれば教えてください。

前田:
まずは「QUEST」という実験的取り組みをしっかり続けていくことです。先人たちの取り組みの積み重ねにより、共創と革新というキーワードが組織内に浸透し、ようやく組織全体として、外部の方々とともに取り組める体制が整ってきているのを感じます。

今回のQUESTのアイデアコンペでは10件程度を採択予定ですが、QUESTはコンペ自体が目的ではなく、多様な方と繋がって共創による価値を生みだすコミュニティ形成を目指していきたいと考えていますので、今年度のプロジェクト提案を考えていない方でも、少しでもご関心がございましたら、イベント等にご参加いただき、共創のコミュニティを一緒に築いていただけたらとても嬉しいです。

そして、実際の活動を通じて知見を蓄積し、成果を出すことで、QUESTに限らず「共創が当たり前の組織」を目指していきたいですし、それによって、関わっていただく外部のアクターにとっても、付き合い甲斐のある組織になれたらと思っています。

栫井:
まさに、組織変革の取り組みですね。最後に、未来の共創パートナーへのメッセージをお願いします。

前田:
JICAは、課題領域も、国や地域も、非常に多岐にわたる分野、地域で事業を行っています。あまり知られていないところでも、実はJICAが関与していることもあるのではないかと思います。

「JICAと組めばこんなことができる」と思いつく方は、ぜひご相談ください。QUESTに限らず、共創してくださる仲間を、心よりお待ちしています!

◾️QUESTウェブサイト:QUEST – JICA共創プログラム
■マッチングイベント参加登録:


この出会いをきっかけに、何かが動き出すかもしれません。
記事を読んで感じたこと、共に取り組んでみたいテーマなど、どんなことでも構いません。
ぜひ、前田さんへ想いをお寄せください。
いただいた内容は、前田様にお届けさせていただきます。

編集後記

「共創は、出逢いと対話から始まる」

前田さんの言葉の端々に、その確信がにじんでいました。何も明確に決まっていなくても、まずは一緒に考えること。今回のQUESTも、そんな一歩を大切にしています。

「うちには関係ない」と思っていた方こそ、ぜひ一度、問いを持ち寄ってみてください。そこから世界は広がります。

株式会社Publink 代表取締役社長 CEO 栫井誠一郎(インタビュアー)

ライター
:株式会社Publink 阪上 結紀

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